人はなぜ絵を描くのでしょう?映画「冬の華」編

昭和53年(1978年)公開の映画「冬の華」は、高倉健主演のやくざ映画です。
やくざ映画のスタイルを借りた一人の寡黙な男の生きざまが物語になっています。
クロード・チアリの哀愁を感じさせるギターが映画全体に使われていますが、クラッシック音楽であるチャイコフスキーのピアノコンチェルトもたびたび重要な役割をもって使われています。
やくざ映画の映画音楽としてのイメージからはだいぶかけ離れています。
もう一つ風変りな点があり、それがこのコーナーのテーマである「絵」です。
高倉健のおやじさん(親分)は絵が好きなのです。
刑務所に入っていた高倉健が出所してくると、出所祝いに親分は絵をプレゼントします。高倉健が舎弟に「出所祝いに絵を頂いたよ」とつぶやくと。舎弟はこんな事を言います。
「最近すっかり絵に凝ってましてね、みんな往生してます。」
また、こんな場面もあります。
横浜港を望みイーゼルを立て油彩画を描いている親分と高倉健の会話です。
親分「切った張ったはもう御免だよ。絵でも見ているのが一番いいやぁー」
また、しみじみとこんなことも「シャガールはいいなぁー。銭金じゃねーよ。」と。
この親分本当に絵が好きなのですね。そして絵を描く側の愛好家でもあるようです。
さて、人はなぜ絵を描くのでしょう。
やくざが絵を描いても何の不思議でもありません。では何故この親分は絵を描くようになったのでしょうか。
映画ではその答えをはっきり言っている場面はありません。さきほどの台詞から想像すると、それは現在からの逃避ではないでしょうか。それだけとは言いません。この親分には絵を好きになる要素が元々あったのでしょう。
そして、切った張ったの世界で長く生きてきて歳を取り、心身とのに多少疲れを感じた頃に、絵に出合ったのかもしれません。
現状からの逃避という意識は本人にはないかもしれません。
しかし、現状からの逃避は、絵にはまっていった一つの要因であることは間違いないと思われます。
また、この親分が特に好きな画家がシャガールです。
ご存知のようにシャガールは夢をテーマに多くの作品を残しています。
シャガール自身が空を浮遊して恋人に会いに行く夢や故郷に帰る夢。恋人が夢の中で空を飛び自分に会いにくる夢。
そんな絵が多く残されています。いわゆるシャガールの絵は逃避そのものをテーマにしているのです。
深読みかもしれませんが、映画の原作者はその辺も意識して親分が特に好きな画家をシャガールに設定したのではないでしょうか。
ここまできて、人はなぜ絵を描くのかという疑問に対して、一つの答えが見えてきました。
それは「逃避」です。
人は誰でも負の感情や劣等感をたくさん持っています。
負の感情や劣等感からの無意識に近い逃避が絵(芸術)に向かわせる原動力の一つになっていると考えます。
自分自身を見つめても劣等感と絵を描く行為は関連し合っていると常々感じていました。
何を隠そう、この私は劣等感の塊です。(大笑)
尚、以前の投稿(人はなぜ絵を描くのでしょう?夏目漱石編)においても、同じような答になりました。併せてご一読頂ければ幸いです。

話はそれますが、この映画には当時まだ若かった池上季実子が少女(高校生)役で出演しています。
まあ、なんて美しいのでしょう。男なら誰でも恋をしてしまいます。
恋をする・人を愛する・憧れる・愛おしく思う、これらの感情からは、辛く切なく苦しいといった感情も生まれます。
実はこれらの感情も芸術に大きく関係していると考えています。
その事については、長くなりますのでいずれ機会をみて投稿させていただきます。

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